【エイガノオト】不朽の名作映画音楽レビューサイト

1960年代~1970年代の作品を中心に、懐かしの名作映画とそのサウンドトラックを紹介しています。

ロバート・レッドフォード

「追憶」は僕らの時代の大人のラブストーリー

映画音楽、楽しんでますか。

こんにちは、鳥居遊邦です。
今回ご紹介する作品は「追憶」です。

005追憶

大学時代の同級生と再会し、結婚。戦後の赤狩り旋風が吹き荒れるアメリカ。
リベラルな彼女の活動は、脚本家となっていた彼の仕事に悪影響を及ぼします。
そして別離。
二人の道は時には重なりながらも、そして愛し合いながらも別の道を歩む大人の恋愛ストーリーです。

原題の「我々の歩んだ道(The Way We Were)」は映画の内容とマッチしたタイトルです。「追憶」というタイトルは、あまりに抽象的で、わかりにくいですね。

バーブラ・ストライサンドとロバート・レッドフォードがこの二人を演じます。
この頃は人気の絶頂にあったレッドフォード。彼がストライサンドの引立てに徹していることに、新鮮の驚きをもって観たことを思い出します。
ここでのレッドフォードはヒロインの相手役に過ぎず、肝が座らない「チョイダメ男」です。
よくこんな役を引き受けたものです。

主題歌の「The Way We Were」を歌うのもストライサンドです。
この曲はマーヴィン・ハムリッシュの手によるもので、1973年のアカデミー主題歌賞に輝いています。という訳で良い曲でありますが、同時に歌詞も素晴らしいです。

バーブラ・ストライサンドは個性的な顔立ちからか、日本ではそれほど人気があるとは言えませんが、女優としても、そして本職の歌手としても、アメリカでは紛れもない大スターです。
「追憶」に出演した数年後にはアカデミー主演女優賞(ファーニー・レディ)を獲得していますし、アカデミー歌曲賞(スター誕生)や「愛のイエントル」ではゴールデングローブ賞の監督賞にも輝いています。
にも関わらず、日本のメディアは彼女を冷遇しています。映画さながらに政治的な女性だということも、日本での不人気に関係しているのかも知れません。
 
彼女の代表作のひとつである、この「追憶」の主題歌と「スター誕生」の主題歌(Evergreen)は名曲ですし、商業的にも大成功している曲です。彼女が日本で見直されるのは亡くなった後なのかなと思うと、残念です。
 
「スター誕生」のプロモーションでの来日した際、NHKニュースでインタビューが放送されました。その時に「私は自分の鼻が嫌い。でも左前方から映すと鼻がいくぶん目立たないの。だからインタビューや写真は、顔の左側から映るようnしているのよ」と言ってました。
そんなに変わるとは思えないのですが(笑)。
ネットに公開されている写真も、左前方の写真がほとんどです。ご確認下さいませ。

「追憶」の脚本を書いたアーサー・ローレンツは、「ウエストサイド物語」の脚本家として有名です。
キャサリン・ヘブバーンの「旅情」の原作も書いています。「追憶」は赤狩りの時代。まさに現場にいた彼の力作と言っても過言ではないでしょう。
でも、どうしてもバーブラ・ストライサンドに引っ張られる感が強くて、気持ちが入りにくい映画でした。嫌いというわけでもないし、いま観たら別の感想を持つと思います。

だからここで敢えて言います。名画とされる映画は数年置いてから、再び観るべきです。
これが映画との本当のつきあい方、と宣言して今日は筆をおきます。

ラストのマンハッタンでの再会と抱擁、そして別れ。綺麗なエンディングでした。

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「追憶」(1973) The Way We Were
監督:シドニー・ポラック
作曲:マーヴィン・ハムリッシュ
出演:バーブラ・ストライサンド/ロバート・レッドフォード 

「スティング」は練りに練られた娯楽の帝王

映画音楽、楽しんでますか。

こんにちは、鳥居遊邦です。
今回ご紹介する作品は「スティング」です。

004スティング


ギャングを騙した詐欺師(ロバート・レッドフォード)が、仕返しに師匠を殺されます。
報復にギャングの親玉(ロバート・ショウ)を一泡吹かせようと、師匠の友人である伝説の詐欺師(ポール・ニューマン)とタッグを組みます。
メッセージのない映画と書くと熱心なファンからは怒られそうですが、「スティング」はエンタティメントに徹した作品です。観客さえも騙す脚本は、当時20代のデビッド・S・ワードによるもので、この作品でアカデミー脚本賞を受賞しています。脚本賞は主要4賞(作品・監督・主演女優・主演男優の各賞)と比べて扱いは小さいのですが、実は最も注目するべき賞だと私は考えています。脚本の出来は映画の完成度に最も影響する要素ですからね。

映画の全編を流れるのは、スコット・ジョプリンが作曲したラグタイムの数々です。
中でもモチーフとして何度も流れるのが、スローテンポの「ソラス(Solace)」とアップテンポの「ジ・エンターテイナー(The Entertainer)」です。スコット・ジョプリンが20世紀初頭に作曲したこれらの曲は、マーヴィン・ハムリッシュの見事なアレンジによるもので、本編への効果は見事としか言いようがありません。この「スティング」でマーヴィン・ハムリッシュはアカデミー編曲・歌曲賞を受賞しています。クリエイティブな面のみならず、スコット・ジョプリンに再びスポットライトを当てたことも、功績といえるでしょう。ちなみに彼はこの年のアカデミー主題歌賞も受賞(「追憶(The Way We Were)」)したので、2つのオスカー像を持ち帰ることになりました。


脚本の完成度の高さは見事ですが、サウンドトラック盤に収められた曲も素晴らしいと思います。
いわゆる「捨て曲」がありません。映画の設定である1930年代の雰囲気をスコット・ジョプリンのラグタイムが飾ります。前述の「ソラス」「ジ・エンターテイナー」だけでなく、映画を観た方であれば、どれも懐かしい気持ちになるはずです。おススメはピアノバージョンの「ソラス」。部屋の電気を少し落として、「ソラス」を聞きながら一杯。自宅に居ながらイイ雰囲気を作り出せます。


「スティング」でアカデミー監督賞を受賞したジョージ・ロイ・ヒルは、ハリウッドで撮った映画は20本足らずしかありません。
ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードとのトリオではもう一本「明日に向かって撃て!」があります。これとは別にレッドフォードとは「華麗なるヒコーキ野郎」、ポール・ニューマンとは「スラップショット」といった映画も撮っています。
寡作ではありますが、SFにミュージカルやラブロマンスと、ジャンルを問わない作品を創りだしています。「リトル・ロマンス」では「明日に向かって撃て!」や、この「スティング」の名シーンを挿入していますが、「監督として自分で作り出した人物を、別の自分の映画の主人公の憧れの対象にする」という楽屋オチ的な手法で楽しませてもらいました。

作品の舞台となっているシカゴ。ところどころにシカゴ・ロケのシーンを挿入するところもなかなかニクい演出です。

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<サントラをYouTubeで試聴する>
 


「スティング」(1973) The Sting
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
作曲:マーヴィン・ハムリッシュ/スコット・ジョプリン
出演:ポール・ニューマン/ロバート・レッドフォード/ロバート・ショウ