映画音楽、楽しんでますか。

こんにちは、鳥居遊邦です。
今回ご紹介する作品は「その男ゾルバ」です。

008その男ゾルバ


父親が遺した炭鉱を稼働させるために、クレタ島へ向かうイギリス人作家。道中知り合った調子の良いギリシャ人・ゾルバを雇い、炭鉱の復活を目論むのだが―。陽気で女好きでお調子者のゾルバを、名優アンソニー・クインが気持ち良く演じています。残念なことに、この年のアカデミー賞は歴史に残る激戦で、アカデミー主演男優賞は逃してしましました。

ギリシャ人とのハーフであるイギリス人作家は、ゾルバに翻弄され、木材を下すためにゾルバが作った設備も試運転で壊れ、すっからかんになります。それでも自らの中に流れるギリシャ人の血のなせる業か、ゾルバにギリシャのダンスを教わるシークエンスで映画は幕を閉じます。

ちなみにこのダンス、作品のためのオリジナルです。その後、「シルタキ」の名称でギリシャの大衆舞踊となっています。


一文無しとなりながらも、ゾルバにダンスを教わり、二人が踊るときに流れるこの曲は、ミキス・テオドラキスの手によるものです。映画のBGMというのは、本来ならば出演者には聞こえないはずなのですが、ラストシークエンスでは垣根が取り払われて、観客と出演者は同じ曲を聴くことになります。
このパラドックスはミュージカル映画では当たり前のことですね。


このシークエンスが撮影されたクレタ島のスタブロスは、風光明媚なリゾートです。モノクロ作品ではありますが、私にとってはふたりのダンスシーンは脳内カラーとなって記憶されています。クレタ島に行くことがあれば、訪れてみたい場所です。

この作品が海外で公開された1964年は東京オリンピックの年です。この曲は2004年のアテネオリンピックの開会式にも使われていましたし、ミキス・テオドラキスはバルセロナオリンピックの曲も書いています。オリンピックに縁がある作曲家ですね。


作品の原題は、「Zorba the Greek」。「ギリシャ人、ゾルバ」よりも、邦題の方が良い例です。話は逸れますが、中世のスペインで活躍した画家エル・グレコも、「ギリシャ野郎」という意味です。そのエル・グレコも、クレタ島の出身です。

ギリシャ人を演じたアンソニー・クインは、アイルランド系メキシコ人です。この作品だけ見ると、ギリシャ人だと言われてもわかりません。アメリカンネイティブの血も引くアンソニー・クインは、「道」ではイタリアの大道芸人、「アラビアのロレンス」ではベドウィンの族長を演じています。どの土地の人物を演じてもハマるという、素晴らしい役者です。そして映画を通じて、「辛いことは笑い飛ばす」ことを私にも教えてくれました。


<YouTubeで視聴する>




「その男ゾルバ」(1965) Zorba the Greek
監督:マイケル・カコヤニス
作曲:ミキス・テオドラキス
出演:アンソニー・クイン/アラン・ベイツ/リラ・ケドロヴァ/イレーネ・パパス