映画音楽、楽しんでますか。
こんにちは、鳥居遊邦です。

今回ご紹介する作品は「ラ・マンチャの男」です。

017ラ・マンチャの男


 ドン・キホーテで知られるセルバンテス。
彼が牢獄に入れられた設定で繰り広げられるミュージカルです。
セルバンテスが牢獄で他の囚人の手から守る原稿が、「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ(ラ・マンチャのキホーテ伯)」。
作品では牢獄のシークエンスと、セルバンテスが原稿の内容を説明するシークエンス(劇中劇として演じるのですが)による構成となっています。
 
 騎士道物語に熱中した貧乏貴族が騎士道を極めるべく、従者のサンチョ・パンサと共に旅に出る、というのがドン・キホーテの物語の骨子で、この内容が作品の中でも再現されるというわけです。
セルバンテスを演じたピーター・オトゥールが劇中劇でもドン・キホーテを演じるなど、一人三役をこなします。同様にソフィア・ローレンも二役を演じています。

<見果てぬ夢>
 「有名な」という表現は陳腐ではありますが、曲名をご存知なくてもお聴きになったことがあると思います。
ピーター・オトゥールが高らかに歌い上げるパートは、感動的です。
オリジナルはブロードウェーのミュージカルで、ピーター・オトゥールが歌う前にも、フランク・シナトラやアンディ・ウィリアムス、トム・ジョーンズなど多くの歌手がカバーしている名曲です。
エルビス・プレスリーのカバーバージョンはお笑いですが(失礼)。

     見果てぬ夢を夢見て
     歯が立たぬ敵と戦い
     言いようのない悲しみに耐え
     勇気が出ないような恐ろしい場所で走り

 意訳で申し訳ないですが、大げさに言えば、私の人生の応援歌のひとつです。
ファンの方には申し訳ないのですが、松本幸四郎の舞台は私にとっては冒◯としか思えません(笑)。
 
 ブルース・リーもこの曲を愛しており、生前から自分の葬儀でかけるように言い遺していました。
葬儀では実際に曲がかけられたのですが、残念ながらこの作品の公開は、彼の死後のことでした。
 
 ところでピーター・オトゥールが歌うときにソフィア・ローレンが立っているのですが、いま観ると「バストの大きな柴崎コウ」ですね。是非ともご覧下さい。

<ピーター・オトゥール!>
 舞台出身のピーター・オトゥールは、「アラビアのロレンス」で主役に抜擢され、アカデミー主演男優賞にノミネートされます。
2003年には名誉賞でようやくオスカー像を手にします。
念願のオスカー像を片手に「今まで介添え役ばかりだったのですが、ようやく花婿になれました。
これからはこのオスカー像とは死がふたりを分かつまで、共に過ごします」とスピーチしています。
その後もう一度主演男優賞にノミネート(「ヴィーナス」2006年)されますが、その時もノミネート止まり。都合8回のノミネートで受賞に至らなかったという不名誉な記録の持ち主です。
奇行癖があったり、毒舌家であったり、私にとっては他人のような気がしない性格が災いしたとも言われています。
 
 そうした性格もあって、この「ラ・マンチャの男」の後は、いくつかの例外を除いて巡りあわせが悪く、男優賞にノミネートされた作品でも日本で公開されていないものもあります。
配給会社の社員のサラリーマン化が目も当てられなくなった1980年代ですから、仕方がないんですけどね。
その後も騙されてポルノ映画に出演させられたり(笑)、まあ散々な目にあったりします。
いくつかの例外ともいえる「ラスト・エンペラー」では、クレジットこそ上位にあるものの、パッとしない役どころでした。
賞とは無縁なB級コメディですが、「ラルフ一世はアメリカン」のような仕事は、逆に良かったりします。
それでも彼は超一流の役者です。語弊を恐れずに言えば、全盛期が「アラビアのロレンス」から本作の10年間だけ、というのは寂しい限りです。

<トレド>
 古都トレドはカスティーリャ・ラ・マンチャ州の州都で、遺跡も多く存在する街です。
セルバンテスの原作で、ドン・キホーテが怪物と間違えて突っ込んでいく有名な風車小屋も、この街の郊外にあります。
ところがこの作品、屋外のシーンもセット同様にローマで撮影されています。
その昔、旅で出会ったスペイン人が、「日本を舞台とした映画を台湾で撮影するようなものさ。当事者以外には、区別なんかつかないよ。大したことないさ」と言い、楽しく映画談議をしたことを思い出しました。

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<サントラをYouTubeで試聴する>


「ラ・マンチャの男」(1973) A Man of La Mancha
監督:アーサー・ヒラー
作曲:ミッチ・リー
出演:ピーター・オトゥール/ソフィア・ローレン