今回ご紹介する作品は「ミッドナイト・エクスプレス」です。

023ミッドナイト・エクスプレス

 イスタンブールの刑務所から脱走するアメリカ人青年の実話を基にした作品です。
「え、犯罪者の映画じゃないですか?」って、まあ、その通りです。犯罪者といっても大麻の密輸で捕まる間抜けな若者です。その若者が裁判のやり直しなどもあり、お世辞にも快適とは言えない刑務所で不当に長い刑を過ごす羽目になる話です。
「ミッドナイト・エクスプレス(深夜急行)に乗る」というのは、刑務所からの脱走を意味する隠語です。「特急」に乗ることの意味でもありません。

 この作品を非難する方は日本には数多いです。
ネット上にも溢れています。この勘違い論評は、大きな事実誤認と勘違いから出ているものなので、救いようがありません。事実誤認については、最後に書きます。

<サウンドトラックは美しい>
 設定は重く、デートで観に行くような作品ではありません。
つらい刑務所での日々の中にあるオアシスのような瞬間のシークエンスでかかる「Midnght Express Love's Theme」をここではご紹介しますが、作品の内容とは大きくかけ離れる曲です。

 メインテーマである「Theme from Midnight Express」には、インストルメンタルとボーカルのバージョンがあります。こちらも名曲だとは思いますが、寡聞にしてあまりカバーバージョンを聞いたことがありません。
 これらの作曲を手掛けたジョルジオ・モロダーは、見事に第51回アカデミー作曲賞に輝いています。アカデミー脚色賞も受賞していますが、受賞者はオリバー・ストーンです。

<トルコでの撮影>
 あまりにもトルコの扱い方がひどいということで、地上波での放送が打ち切りになったという逸話があります。
が、なんとこの映画はイスタンブールでの撮影を敢行しています。おそらくラストのシークエンスもその一部だと思います。完全にだまし討ちの撮影だとは思いますが(笑)。

 実話を基にしているとはいえ、脚色が大胆(だから脚色賞受賞?)であるため、原作者のビリー・ヘイズも後にトルコで謝罪をしているとか。一番悪いのは、大麻を持って国境を越えようとしたあなたですからねえ....

 ところでトルコ政府の意図とは裏腹に、この作品を観た私はトルコ、とりわけイスタンブールへの旅行を夢見るようになりました。残念ながらまだ夢は実現していませんが、私の中東マニア旅の入門となった作品でもあります。また「大麻には生涯手を出すまい」とも作品を観てから誓ったものです。

<事実誤認>
 ここでいくつかの作品及び一般的な事実誤認について触れさせて下さい。

 ひとつは大麻と麻薬を混同している点。空港のタラップで主人公が逮捕されたときに腹に巻いていたものを「麻薬」と思い込んでいるようですが、あれは「大麻」です。多くの国では麻薬を取り締まる法律から「大麻」を除外しています。日本でも同様です。大麻取締法は初犯の場合は執行猶予付となることが多いですが、麻薬取締法はまず執行猶予はつきません。そもそも主人公が隠し持っているものを「麻薬」と断罪する時点で、無知を晒しています。

 「それでも犯罪者だろ」というツッコミがあちこちから聞こえてきそうですが、ちょっと待って下さい。彼がイスタンブール空港で逮捕された1970年は、アメリカの多くの州では大麻の単純所持では逮捕されません。法律では禁止されていたのですが、法の執行をしなかったという意味です。世界中に広がったヒッピームーブメントの常識では、彼は犯罪者ではないのです。うるさくなったのは、レーガンが大統領になり、嫁のナンシーはキャンペーンをはじめてからです。

 また主人公のアメリカ人をヒーローチックに描いているという批評がありますが、その論理だとローマ帝国に死刑にされたキリストを崇拝する宗教は邪教だし、アメリカの艦隊に突っ込んでいった特攻隊員は、暴走族と変わらないという主張と同じです。大量の大麻を所持していたので、救いようがないよね、というオチはあるのですが(笑)。それにしても、反イスラム映画という位置づけをしていた批評もあったことには驚きました。現在の常識で全てを断罪してはなりませぬ。

 もうひとつ。実際のビリー・ヘイズは看守を殺してはいません。


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<サントラをYouTubeで試聴する>


「ミッドナイト・エクスプレス」(1978) Midnight Express
監督:アラン・パーカー
作曲:ジョルジオ・モロダー
出演:ブラッド・デイヴィス/アイリーン・ミラクル/ジョン・ハート/ランディ・クエイド