映画音楽、楽しんでますか。
こんにちは、鳥居遊邦です。

今回ご紹介する作品は「夜の大捜査線」です。

016夜の大捜査線
 
 南部の田舎町を偶然通りかかった刑事が、殺人事件の犯人の疑いをかけられるシークエンスから物語は始まります。
嫌疑をかけられたのは、この刑事がよそ者の黒人だったことが理由です。
ロッド・スタイガー演じる田舎の警察署長は典型的な南部の白人で、黒人刑事への差別を隠そうとしません。
刑事を演じるのはシドニー・ポワチエ。
フィラデルフィア警察の敏腕刑事である彼の協力で、真犯人を追い詰めていきます。

 確かにこの作品は犯罪捜査モノですが、大捜査線が引かれません。
原題は「うだる夜の暑さの中で」というニュアンスです。
オーバーな邦題には、JAROに苦情を申し立てるべき?
 
 ロッド・スタイガーはこの作品で主演男優賞を受賞。
彼ほど一刻な男を演じることが上手い役者は、もう出てこないかも知れません。
アカデミー賞は作品賞と併せ、5つの賞に輝いた作品です。

 ところでこの作品、舞台はミシシッピ州ですが、撮影の大部分はイリノイ州で行われました。
作品の撮影以前、シドニー・ポワチエはミシシッピ州でKKKに殺されそうになった経験から、北部での撮影を主張したとか。かなりの裏話ですが・・・
 
 壮大に広がるコットン畑はテネシー州ダイアーズパークでの撮影です。
以前、この近辺に出張で訪れたことがあるのですが、その際メンフィスの空港からレンタカーでドライブをしました。まさしく映画そのものの風景でした。
見渡す限りのコットン畑は、一見の価値があると思います。

<クインシー・ジョーンズが書いて、レイ・チャールズが歌う>
 1970年代のNHK-FMでは、今は亡き関光夫さんがサウンドトラックの番組を月に一回やっていました。確か第2火曜日だったように記憶しています。
レイ・チャールズのことは「シンシナティ・キッド」で既に知っていたのですが、関光夫さんの番組で「夜の大捜査線」を聴いたとき、「レイ・チャールズってカッコイイ」と思ったものです。
ずいぶんませた小学生ですよね(笑)。
数年後に作品を観たとき、映画への高い親和性に感心しました。
うだる暑さをうだる声で歌うレイ・チャールズ。作品と主題歌のマッチ度の高さにシビレました。
曲をご存知ない方には聴いていただきたいし、さらには作品もご覧になって欲しいです。

<公民権運動とシドニー・ポワチエ>
 作品の中でのシドニー・ポワチエが演じる刑事への嫌がらせは、人種差別というものがよくわかると思います。
映画のデフォルメかとも思ったのですが、その後、差別というものはもっと根深く、もっと許せないものだということを知ることになります。
私にとって、アメリカという国に対する不信感の始まりとも言える作品ですが、エンディングのシークエンスではある種の救いもあります。
 
 シドニー・ポワチエはこの作品の数年前に、「野のユリ」で非白人として初めてのアカデミー賞を受賞しています。
「彼が演じる黒人像は白人にとって都合の良い黒人ばかりだ」という声もありますが、彼や他の黒人たちの差別との闘いの成果は否定されるものではありません。
 
 アメリカで「夜の大捜査線」が公開された年、シドニー・ポワチエ主演の作品が他に2本公開されています。
そのうちの一本、「招かれざる客」も人種差別をテーマにした作品です。
スペンサー・トレーシーの遺作となったこの作品も、機会があれば是非ともご覧下さい。
 
 ところでシドニー・ポワチエの奥様は、アラン・ドロンの「冒険者たち」のヒロインを演じていたジョアンナ・シムカスです。彼女は結婚後に映画界から引退してしまいました。
私の初めての嫉妬です(笑)。

<この映画のDVDはこちらで購入できます>


<サントラをYouTubeで試聴する>



「夜の大捜査線」(1967) In The Heat Of  The Night
監督:ノーマン・ジュイソン
作曲:クインシー・ジョーンズ
出演:シドニー・ポワチエ/ロッド・スタイガー/ウォーレン・オーツ