【エイガノオト】不朽の名作映画音楽レビューサイト

1960年代~1970年代の作品を中心に、懐かしの名作映画とそのサウンドトラックを紹介しています。

「ペンチャー・ワゴン」はイーストウッドも歌う

映画音楽、楽しんでますか。

こんにちは、鳥居遊邦です。
今回ご紹介する作品は「 ペンチャー・ワゴン」です。

010ペンチャーワゴン

原題のカタカナ表記は観客の注意を引かず、興行的にも滑ってしまうといういい例です。カタカナ表記を否定するわけではありませんが、配給会社の方々にはもう少し日本語や創造力を鍛えて欲しいものです。この作品は西部劇であり、ミュージカルです。原題は「Paint Your Wagon」。アドベンチャーの「ベンチャー」ではありません。

ゴールドラッシュの時代に、友情で結ばれた男二人と一人の女性の話です。この2対1の構図はおそらく映画にしやすいのか、たくさん思い当たりますよね。この作品ではリー・マーヴィンとクリント・イーストウッドが、ジーン・セバーグと絡みます。最後はリー・マーヴィンが二人の元を去るという話です。これも「2対1」の定番ですね。

<ある意味、とてもレアな>
西部劇であり、ミュージカルなので、出演する役者は歌うことになります。「マイ・フェア・レディ」のオードリー・ヘップバーンと違い、リー・マーヴィンもクリント・イーストウッドも歌います。寡聞にして、二人がこれ以外で歌っている作品を思いつきません(「ドノバン珊瑚礁」でリー・マーヴィンが合唱に加わっていたような記憶もありますが)。今や大監督となったクリント・イーストウッドが歌うのも悪くないのですが、リー・マーヴィンの歌がイイです。けして上手いわけではないですが、渋い低音の魅力で歌う「さすらいの星」は味のある名曲です。

<リー・マーヴィンの魅力>
長身で少し怖い顔。故に脇役が長かった役者です。海兵隊に在籍していたので、軍服も板についていました。こういう名脇役の層が厚かったので、ハリウッド全盛時代のアメリカ映画界は面白かったのだと思います。一人二役の名演で、「キャット・バルー」でアカデミー主演男優賞を獲得した後は主役の映画が増えますが、いくつかの例外を除いて、出演作には恵まれなかったと思っています。主役を喰らう脇役の怪演、もっと観たかったです。

あまり観る機会がないこの作品ですが、2015年5月にDVD廉価版が発売になるようです。私も買うつもりです。


<YouTubeで試聴する>



「ペンチャー・ワゴン」(1969) Paint Your Wagon
監督:ジョシュア・ローガン
作曲:フレデリック・ロウ
出演:リー・マーヴィン/クリント・イーストウッド/ジーン・セバーグ

 

「M★A★S★H」でイタズラ心を思い出す

映画音楽、楽しんでますか。

こんにちは、鳥居遊邦です。
今回ご紹介する作品は「
M★A★S★H」です。

009M★A★S★H

「M★A★S★H」とは移動野戦病院のこと。徴兵された外科医たちの活躍、というよりは破天荒な乱痴気騒ぎを描いたコメディ映画であり、戦争の愚かさを笑い飛ばす反戦映画でもあります。

野戦病院に集う医者や医療関係者のキャラクターの設定も濃いのですが、とりわけ主役の三人(ドナルド・サザーランド、エリオット・グールド、トム・スケリット)のキャラが際立ちます。三人は外科医としては超一流で、戦闘の度に運び込まれる傷を負った兵士たちの処置には素晴らしい活躍を見せます。一方で兵士が運び込まれないオフの悪戯は、我々の常識を超えるものです。ある映画サイトで、「戦争という非常時にこんな悪戯騒ぎの映画はけしからん」といったコメントがありました。しかしこの作品のテーマである「反戦」を描くには、必要なシークエンスであり、的外れなコメントと言わざるを得ません。なぜかこの的外れなコメント、現在は削除されています。で、悪戯の件ですが、映画を観て下さい(笑)。

「もしもあの世に行けたなら」
この作品の主題歌の日本語訳(実は原稿を書いている時に知ったのですが)です。原題は「Suicide is painless」、つまり「自殺は痛くない」です。こういうのを自主規制と言うんですよね。別に自殺を推奨する内容の歌詞ではないのですが、表現に関わる人間が、こうした自己規制をするのはどうかなと思います。良いバラードであり、哲学的な歌詞の曲です。もっとマトモな邦題を考えて欲しかったものです。

前述の的外れなコメントは、原作に接していればおそらく出なかったものだと思います。映画は総合芸術、原作や音楽も共に楽しむのが「エイガノオト」的な映画へのアプローチです。映画は原作に忠実です。主人公たちが日本へ行くエピソードやアメリカンフットボールの試合に臨むシークエンスなどは、「観てから読むか」ではなく、「読んでから観る」を選んで欲しいところです。

またこの作品以外に目立った主演作が少ない主役の三人の演技、十分楽しんで下さい。

遊邦的には、高校2年のときのクラスがまさに「M★A★S★H」なクラスでした。担任も彼らの上司のような人物。いろいろな運動部のエースがいるクラスでありながら、実力テストの平均点も一番。昼休みには歌謡曲ライブをやったり、授業中に先生から指名されると、歌謡曲ライブで使うマイクロフォンも一緒に回ってくるクラスでした。そのときに「M★A★S★H」を観ていたのは、早熟な私だけだったので、この作品の話で盛り上がることはなかったのが、残念です。

<YouTubeで試聴する>




「M★A★S★H」(1970) M*A*S*H
監督:ロバート・アルトマン
作曲:ジョニー・マンデル
出演:ドナルド・サザーランド/エリオット・グールド/トム・スケリット

 

「その男ゾルバ」で辛さを笑い飛ばす秘訣を知る

映画音楽、楽しんでますか。

こんにちは、鳥居遊邦です。
今回ご紹介する作品は「その男ゾルバ」です。

008その男ゾルバ


父親が遺した炭鉱を稼働させるために、クレタ島へ向かうイギリス人作家。道中知り合った調子の良いギリシャ人・ゾルバを雇い、炭鉱の復活を目論むのだが―。陽気で女好きでお調子者のゾルバを、名優アンソニー・クインが気持ち良く演じています。残念なことに、この年のアカデミー賞は歴史に残る激戦で、アカデミー主演男優賞は逃してしましました。

ギリシャ人とのハーフであるイギリス人作家は、ゾルバに翻弄され、木材を下すためにゾルバが作った設備も試運転で壊れ、すっからかんになります。それでも自らの中に流れるギリシャ人の血のなせる業か、ゾルバにギリシャのダンスを教わるシークエンスで映画は幕を閉じます。

ちなみにこのダンス、作品のためのオリジナルです。その後、「シルタキ」の名称でギリシャの大衆舞踊となっています。


一文無しとなりながらも、ゾルバにダンスを教わり、二人が踊るときに流れるこの曲は、ミキス・テオドラキスの手によるものです。映画のBGMというのは、本来ならば出演者には聞こえないはずなのですが、ラストシークエンスでは垣根が取り払われて、観客と出演者は同じ曲を聴くことになります。
このパラドックスはミュージカル映画では当たり前のことですね。


このシークエンスが撮影されたクレタ島のスタブロスは、風光明媚なリゾートです。モノクロ作品ではありますが、私にとってはふたりのダンスシーンは脳内カラーとなって記憶されています。クレタ島に行くことがあれば、訪れてみたい場所です。

この作品が海外で公開された1964年は東京オリンピックの年です。この曲は2004年のアテネオリンピックの開会式にも使われていましたし、ミキス・テオドラキスはバルセロナオリンピックの曲も書いています。オリンピックに縁がある作曲家ですね。


作品の原題は、「Zorba the Greek」。「ギリシャ人、ゾルバ」よりも、邦題の方が良い例です。話は逸れますが、中世のスペインで活躍した画家エル・グレコも、「ギリシャ野郎」という意味です。そのエル・グレコも、クレタ島の出身です。

ギリシャ人を演じたアンソニー・クインは、アイルランド系メキシコ人です。この作品だけ見ると、ギリシャ人だと言われてもわかりません。アメリカンネイティブの血も引くアンソニー・クインは、「道」ではイタリアの大道芸人、「アラビアのロレンス」ではベドウィンの族長を演じています。どの土地の人物を演じてもハマるという、素晴らしい役者です。そして映画を通じて、「辛いことは笑い飛ばす」ことを私にも教えてくれました。


<YouTubeで視聴する>




「その男ゾルバ」(1965) Zorba the Greek
監督:マイケル・カコヤニス
作曲:ミキス・テオドラキス
出演:アンソニー・クイン/アラン・ベイツ/リラ・ケドロヴァ/イレーネ・パパス

「炎のランナー」で君は走るか?

映画音楽、楽しんでますか。

こんにちは、鳥居遊邦です。
今回ご紹介する作品は「炎のランナー」です。

007炎のランナー



第一次世界大戦後のイギリス。境遇も違う二人の青年がオリンピックを目指す物語です。
信仰のために走る青年と、ユダヤ人であるが故に差別を受ける青年の話と言えば、友情物語という先入観を持ってしまいそうですが、1924年のパリオリンピックの陸上選手団のチームメイトという関係に過ぎません。
ふたつの別の話が並行して流れるという、やや変わった作品です。

この作品を実話だと思っている人が多いのですが、これは実話に基づいたフィクションです。
アカデミー賞も脚色賞ではなく、脚本賞が贈られています。


この作品の冒頭に流れる「タイトルズ」は、CMに使われたこともあって、広く知られている曲です。
ランナーたちが走る砂浜は、ゴルフで有名なセントアンドリュースの海岸です。
「タイトルズ」をバックに彼らが走るシーンを、真似をしたことはありませんか?
私は何度もあります。しかもスローモーション付で(笑)。

「タイトルズ」を含むサウンドトラックは、ヴァンゲリスの作曲です。
日本では日韓ワールドカップのアンセムや、「南極物語」のサウンドトラックで知られていますね。
カールセーガンのテレビドキュメンタリー「COSMOS」も有名です。

閑話休題。
ヴァンゲリスは「炎のランナー」でアカデミー賞の作曲賞を獲得しています。
この年の受賞は「レイダーズ/失われたアーク」を抑えての栄誉です。
あの「インディージョーンズ」に勝ったということになります。


作品の舞台の一つであるケンブリッジ大学のシークエンスは、イートン校で撮影されました。
ユダヤ人である主人公の一人が、大学に差別されたかの表現になっていることから、ケンブリッジ大学側が拒否したと言われています。
第一次世界大戦中に二枚舌、いや三枚舌外交によって、現代のパレスチナ問題の根幹を作った国のエリート校であるからこそ、見せたくない恥部なのでしょう。
そもそも設定がケンブリッジ大学になっているのに、映画に意地悪をしても意味がないとは思いますがねえ。




<YouTubeで試聴する>





「炎のランナー」(1982) Chariots of Fire
監督:ヒュー・ハドソン
作曲:ヴァンゲリス
出演:ベン・クロス/イアン・チャールソン/ブラッド・デイビス

「ソルジャーブルー」で視点を変えることを学ぶ

映画音楽、楽しんでますか。

こんにちは、鳥居遊邦です。
今回ご紹介する作品は「ソルジャーブルー」です。


006ソルジャーブルー

騎兵隊がシャイアン族を虐殺した事件(サンドクリークの虐殺)を背景にした異色の西部劇です。
キャンディス・バーゲンがアメリカンネイティブと白人の橋渡しをする役を演じています。サンドクリークの虐殺のシークエンスは映画史上に残る残酷なシーンが続きますが、一見の価値があるおススメの映画です。

ソルジャーブルーというのは、騎兵隊の制服のことです。
オーバーな表現ではありますが、この映画以前に描かれた騎兵隊は正義の味方で、地球防衛軍やウルトラ警備隊のような存在です。しかしこの作品に出てくる騎兵隊は、まるでショッカーやスターウォーズの帝国軍、悪の権化です。

<主題歌の素晴らしさ>
バフィ・セントメリーが歌う主題歌「ソルジャーブルー」は、アメリカンネイティブが愛する大地で生きてきたさまを謳っています。
残酷な映画が美しい旋律のサウンドトラックで彩られる手法はこの作品が走狗というわけではないのですが、そのギャップは観る者の心を揺さぶります。そしてこの曲を聴くたびに、騎兵隊の蛮行を思い出すという効果を残します。

<今でも無視されている>
アメリカンネイティブを虐殺してフロンティアが太平洋に達した後、アメリカはハワイを併合し、日本に原爆を落とし、ベトナムで枯葉剤を巻きました。
アメリカが本格的にベトナム戦争にのめり込んでいく時代に作られたこの作品は、当時は見事なほどに無視をされました。時代を下った今でも、AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)の推薦もなく、まるでなかったかのような扱いを受けている映画です。アフガニスタンやイラクへの侵攻を考えれば、ベトナム後のアメリカの西進政策は終わっていないので、当然とも言えるかも知れませんね。アメリカという国の異文化、特に非キリスト教への非寛容さの原点と言えるでしょう。

この作品以降、またアメリカンネイティブをインベーダーのように描く作品が激減したのは、大きな貢献だと思います。初めて観たのは中学生の時でしたが、報道や評判を鵜呑みにしてはいけないということ、正義は一方的ではないということを教えてくれた作品でした。



<YouTubeで試聴する>



「ソルジャーブルー」(1971) Soldier Blue
監督:ラルフ・ネルソン
作曲:バフィ・セントメリー(映画のサウンドトラックはロイ・バッド)
出演:キャンディス・バーゲン/ピーター・ストラウス