【エイガノオト】不朽の名作映画音楽レビューサイト

1960年代~1970年代の作品を中心に、懐かしの名作映画とそのサウンドトラックを紹介しています。

「カッコーの巣の上で」で精神病院を覗き見

映画音楽、楽しんでますか。
こんにちは、鳥居遊邦です。

今回ご紹介する作品は「カッコーの巣の上で」です。

020カッコーの巣の上で

 1975年の第48回アカデミー賞授与式で、主要5部門(作品・監督・主演女優・主演男優・脚本か脚色)を総なめにした作品です。
これはフランク・キャプラ監督の「或る夜の出来事」以来の41年ぶりの快挙です。
アカデミー賞の歴史の中で、この快挙を達成した映画は、他には「羊たちの沈黙」だけです。
 
 精神疾患のフリをして刑務所から精神病院へ移ってくる男が作品の中心です。
この男を演じるのはジャック・ニコルソン。病院のルールを改善するために仕組む、彼を軸としたエピソードがくりひろげられます。
病院、つまり体制側の権威の象徴がルイーズ・フレッチャーが演じる婦長です。作品はハッピーエンドではありませんが、素晴らしいエンディングです。
 アカデミー賞主演賞を獲得した2人の演技は非の打ちどころがなく、原作とは主人公を違えた脚色も脱帽モノです。

<ジャック・ニッチェ>
 作品のスコアはジャック・ニッチェの作品です。
彼の名前は日本ではあまり知られていません。有名なところでは「エクソシスト」も彼の手によるものです(主題曲の「チューブラ・ベルズ」はマイク・オールドフィールド)。
「愛と青春の旅だち」の主題歌「Up Where We Belong」はバフィ—・セント・メリーらとの共作です。
 
 ここで取り上げる曲は「Charmaine」。
1950年代のマントヴァーニの作品です。劣悪な環境下にあることに加え、楽しい将来は期待できない状況とのコントラストが、作品の完成度を高める効果を引き出す美しい曲です。

<ジャック・ニコルソン>
 一時のジャック・ニコルソンは「脚本を読まずに仕事を受ける男」と揶揄されるほど、多くの幅広い役を演じています。
「イージーライダー」でアカデミー助演男優賞にノミネートされて以来、多くの賞にノミネートされ、受賞をしています。ここ数年は出演作が減り、記憶障害やアルツハイマーの報道もありましたが、ガセだったようです。
 
 映画とはまったく関係はありませんが、1990年代のアエラのインタビューでは、「姉だと信じていた女性が、実は母親であった」と告白しています。

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<サントラをYouTubeで試聴する>

 
「カッコーの巣の上で」(1976) One Flew Over The Cuckoo's Nest
監督:ミロス・フォアマン
作曲:マントヴァーニ(サウンドトラックはジャック・ニッチェ)
出演:ジャック・ニコルソン/ルイーズ・フレッチャー/ウィル・サンプソン
 

「第十七捕虜収容所」でアンチヒーローに憧れる

映画音楽、楽しんでますか。
こんにちは、鳥居遊邦です。

今回ご紹介する作品は「 第十七捕虜収容所」です。

019第十七捕虜収容所
 
 元々は舞台劇です。
第二次世界大戦中のドイツ。作品のタイトルにもなっている第十七捕虜収容所が舞台です。
捕虜の中に紛れ込んでいるドイツ軍のスパイは誰なのか、というテーマでストーリーは進んでいきます。
 スパイの嫌疑をかけられるのは、日頃の行いから捕虜仲間からの信頼が薄いウイリアム・ホールデンです。
彼は他の収容者相手にあこぎとも言える商売をしていることに加え、シニカルな性格が災いして、徐々に収容所で孤立していきます。
そして身の潔白を証明すべく、独力で犯人捜しを始めることになります。

<ジョニーが凱旋するとき>
 作品にはジョニーという役名は出演していないのですが、この作品の主題歌は「ジョニーが凱旋するとき(When Johnny Comes Marching Home)」です。
原曲は南北戦争のときに、北軍の兵隊の帰還を祝うために作曲された「Johnny Fill Up the Bowl」です。その三か月後、この曲の作曲者が歌詞をのせたバージョンを発表するのですが、それがこの「ジョニーが凱旋するとき」です。
 
 作品のBGMで使われるとともに、捕虜が集まってこの歌を歌う、といった使われ方をしています。
他の映画でもこの曲のフレーズが流れることがあります。
アメリカ人にとっては、身近な曲なんでしょうね。作品のエンドタイトルは捕虜仲間の一人が、口笛でこの曲を奏でて、エンディングのテーマへとつながっていきます。
 
 こんなことを書いていて、第一世界大戦中に日本国内の捕虜収容所に収監されたドイツ人捕虜の話を思い出しました。
故郷を思う彼らが歌った「第九」が、日本の初演だったという話です。
1970年代に日本の長時間ドラマで観たのですが、朝ドラの「風見鶏」の主役をやっていた蟇目良が出ていたような、おぼろげな記憶が(笑)。

<ウイリアム・ホールデン>
 ウイリアム・ホールデンはこの作品でアカデミー主演男優賞に輝いています。
この年の主演男優賞は後世でも名作とされる作品に出演していた名優が揃ってノミネートされており、堂々たる受賞です。
ただ「地上より永遠に」から二人のノミネート(モンゴメリー・クリフトとバート・ランカスター)があったことが、ウイリアム・ホールデンにとって幸運だったとも言えます。
 
 「サンセット大通り」(1950年製作)以降、彼のギャラは大幅に増額されていったそうです。
おそらく当面の金には困らないと考えたのか、「第十七捕虜収容所」のギャラは、25年払の契約だったそうです。商売人の彼の別の一面を語るエピソードです。

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「第十七捕虜収容所」(1954) Stalag17
監督:ビリー・ワイルダー
作曲:フランツ・ワックスマン
出演:ウイリアム・ホールデン/ドン・テイラー/オットー・プレミンジャー/ピーター・グレイブス 

「明日に向かって撃て」でボリビア軍の強さを再確認する

映画音楽、楽しんでますか。
こんにちは、鳥居遊邦です。

今回ご紹介する作品は「明日に向かって撃て」です。

018明日に向かって撃て


 言わずと知れたニューシネマの傑作のひとつ。
あまりに有名過ぎて、とりあげることも躊躇する一本です。
ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが原題となっている二人のならず者を演じます。ニューシネマの主役はいわゆるアンチヒーローが多いのですが、この作品も同様です。
とは言っても「ボニーとクライド」のような筋金入りのギャングと異なり、どこか憎めない犯罪者という設定となっています。この作品に関しては、あらすじは語りません。是非ともご覧下さい。

<雨にぬれても>
 B・J・トーマスが歌う「雨にぬれても」は、ビルボード全米ベスト1に輝き、さらにはアカデミー主題歌賞を受賞。作曲したバート・バカラックはアカデミー作曲賞を獲得しています。
 
 この曲はポール・ニューマンとキャサリン・ロスが自転車で戯れるシークエンスで流れます。
馬ではなく、自転車にまたがる西部劇は斬新でしたね。
ここで「アラビアのある国では、一緒に自転車に乗るということは結婚したも同じなんだ」とポール・ニューマンはキャサリン・ロスを口説きます。
「荒野の決闘」でヘンリー・フォンダがクレメンタインを口説いたセリフを思い起こさせます。
斬新ながらも西部劇の古典をシンクロさせるところは、さすがジョージ・ロイ・ヒルです。
この作品はアカデミー撮影賞も獲得していますが、このシークエンスも獲得のファクターのひとつでしょう。

<スティーブ・マックイーン?>
 この作品はアカデミー脚本賞も獲得しています。
映画化を前提に、ポール・ニューマンとスティーブ・マックイーンが脚本を入手したのですが、マックイーンが降板したため、二人の主役級での共演は「タワーリング・インフェルノ」(日本公開は1975年)まで待たされることになります。
このふたりの「明日に向かって撃て」が実現していたら、スティーブ・マックイーンもニューシネマの旗手となってもてはやされていたかも知れませんし、逆に作品も単なる西部劇で終わってしまった可能性もあります。
 
 ところであまりにも有名なラストシーン。
主役のふたりの死を暗示していますが、生き延びたという説もあります。
「ブッチ・キャシディ−最後のガンマン−」はその後日談です。
私は観る気も起きないので、ご覧になった方はコメント・感想を下さいませ。
まあ、ボリビア軍はあのチェ・ゲバラも仕留めているので、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドが逃げられたとは思えませんが。

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<サントラをYouTubeで試聴する>


「明日に向かって撃て」(1970) Butch Cassidy and the Sundance Kid
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
作曲:バート・バカラック
出演:ポール・ニューマン/ロバート・レッドフォード/キャサリン・ロス
 

「ラ・マンチャの男」で騎士道を嗜む

映画音楽、楽しんでますか。
こんにちは、鳥居遊邦です。

今回ご紹介する作品は「ラ・マンチャの男」です。

017ラ・マンチャの男


 ドン・キホーテで知られるセルバンテス。
彼が牢獄に入れられた設定で繰り広げられるミュージカルです。
セルバンテスが牢獄で他の囚人の手から守る原稿が、「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ(ラ・マンチャのキホーテ伯)」。
作品では牢獄のシークエンスと、セルバンテスが原稿の内容を説明するシークエンス(劇中劇として演じるのですが)による構成となっています。
 
 騎士道物語に熱中した貧乏貴族が騎士道を極めるべく、従者のサンチョ・パンサと共に旅に出る、というのがドン・キホーテの物語の骨子で、この内容が作品の中でも再現されるというわけです。
セルバンテスを演じたピーター・オトゥールが劇中劇でもドン・キホーテを演じるなど、一人三役をこなします。同様にソフィア・ローレンも二役を演じています。

<見果てぬ夢>
 「有名な」という表現は陳腐ではありますが、曲名をご存知なくてもお聴きになったことがあると思います。
ピーター・オトゥールが高らかに歌い上げるパートは、感動的です。
オリジナルはブロードウェーのミュージカルで、ピーター・オトゥールが歌う前にも、フランク・シナトラやアンディ・ウィリアムス、トム・ジョーンズなど多くの歌手がカバーしている名曲です。
エルビス・プレスリーのカバーバージョンはお笑いですが(失礼)。

     見果てぬ夢を夢見て
     歯が立たぬ敵と戦い
     言いようのない悲しみに耐え
     勇気が出ないような恐ろしい場所で走り

 意訳で申し訳ないですが、大げさに言えば、私の人生の応援歌のひとつです。
ファンの方には申し訳ないのですが、松本幸四郎の舞台は私にとっては冒◯としか思えません(笑)。
 
 ブルース・リーもこの曲を愛しており、生前から自分の葬儀でかけるように言い遺していました。
葬儀では実際に曲がかけられたのですが、残念ながらこの作品の公開は、彼の死後のことでした。
 
 ところでピーター・オトゥールが歌うときにソフィア・ローレンが立っているのですが、いま観ると「バストの大きな柴崎コウ」ですね。是非ともご覧下さい。

<ピーター・オトゥール!>
 舞台出身のピーター・オトゥールは、「アラビアのロレンス」で主役に抜擢され、アカデミー主演男優賞にノミネートされます。
2003年には名誉賞でようやくオスカー像を手にします。
念願のオスカー像を片手に「今まで介添え役ばかりだったのですが、ようやく花婿になれました。
これからはこのオスカー像とは死がふたりを分かつまで、共に過ごします」とスピーチしています。
その後もう一度主演男優賞にノミネート(「ヴィーナス」2006年)されますが、その時もノミネート止まり。都合8回のノミネートで受賞に至らなかったという不名誉な記録の持ち主です。
奇行癖があったり、毒舌家であったり、私にとっては他人のような気がしない性格が災いしたとも言われています。
 
 そうした性格もあって、この「ラ・マンチャの男」の後は、いくつかの例外を除いて巡りあわせが悪く、男優賞にノミネートされた作品でも日本で公開されていないものもあります。
配給会社の社員のサラリーマン化が目も当てられなくなった1980年代ですから、仕方がないんですけどね。
その後も騙されてポルノ映画に出演させられたり(笑)、まあ散々な目にあったりします。
いくつかの例外ともいえる「ラスト・エンペラー」では、クレジットこそ上位にあるものの、パッとしない役どころでした。
賞とは無縁なB級コメディですが、「ラルフ一世はアメリカン」のような仕事は、逆に良かったりします。
それでも彼は超一流の役者です。語弊を恐れずに言えば、全盛期が「アラビアのロレンス」から本作の10年間だけ、というのは寂しい限りです。

<トレド>
 古都トレドはカスティーリャ・ラ・マンチャ州の州都で、遺跡も多く存在する街です。
セルバンテスの原作で、ドン・キホーテが怪物と間違えて突っ込んでいく有名な風車小屋も、この街の郊外にあります。
ところがこの作品、屋外のシーンもセット同様にローマで撮影されています。
その昔、旅で出会ったスペイン人が、「日本を舞台とした映画を台湾で撮影するようなものさ。当事者以外には、区別なんかつかないよ。大したことないさ」と言い、楽しく映画談議をしたことを思い出しました。

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<サントラをYouTubeで試聴する>


「ラ・マンチャの男」(1973) A Man of La Mancha
監督:アーサー・ヒラー
作曲:ミッチ・リー
出演:ピーター・オトゥール/ソフィア・ローレン 

「夜の大捜査線」で人種差別を疑似体験する

映画音楽、楽しんでますか。
こんにちは、鳥居遊邦です。

今回ご紹介する作品は「夜の大捜査線」です。

016夜の大捜査線
 
 南部の田舎町を偶然通りかかった刑事が、殺人事件の犯人の疑いをかけられるシークエンスから物語は始まります。
嫌疑をかけられたのは、この刑事がよそ者の黒人だったことが理由です。
ロッド・スタイガー演じる田舎の警察署長は典型的な南部の白人で、黒人刑事への差別を隠そうとしません。
刑事を演じるのはシドニー・ポワチエ。
フィラデルフィア警察の敏腕刑事である彼の協力で、真犯人を追い詰めていきます。

 確かにこの作品は犯罪捜査モノですが、大捜査線が引かれません。
原題は「うだる夜の暑さの中で」というニュアンスです。
オーバーな邦題には、JAROに苦情を申し立てるべき?
 
 ロッド・スタイガーはこの作品で主演男優賞を受賞。
彼ほど一刻な男を演じることが上手い役者は、もう出てこないかも知れません。
アカデミー賞は作品賞と併せ、5つの賞に輝いた作品です。

 ところでこの作品、舞台はミシシッピ州ですが、撮影の大部分はイリノイ州で行われました。
作品の撮影以前、シドニー・ポワチエはミシシッピ州でKKKに殺されそうになった経験から、北部での撮影を主張したとか。かなりの裏話ですが・・・
 
 壮大に広がるコットン畑はテネシー州ダイアーズパークでの撮影です。
以前、この近辺に出張で訪れたことがあるのですが、その際メンフィスの空港からレンタカーでドライブをしました。まさしく映画そのものの風景でした。
見渡す限りのコットン畑は、一見の価値があると思います。

<クインシー・ジョーンズが書いて、レイ・チャールズが歌う>
 1970年代のNHK-FMでは、今は亡き関光夫さんがサウンドトラックの番組を月に一回やっていました。確か第2火曜日だったように記憶しています。
レイ・チャールズのことは「シンシナティ・キッド」で既に知っていたのですが、関光夫さんの番組で「夜の大捜査線」を聴いたとき、「レイ・チャールズってカッコイイ」と思ったものです。
ずいぶんませた小学生ですよね(笑)。
数年後に作品を観たとき、映画への高い親和性に感心しました。
うだる暑さをうだる声で歌うレイ・チャールズ。作品と主題歌のマッチ度の高さにシビレました。
曲をご存知ない方には聴いていただきたいし、さらには作品もご覧になって欲しいです。

<公民権運動とシドニー・ポワチエ>
 作品の中でのシドニー・ポワチエが演じる刑事への嫌がらせは、人種差別というものがよくわかると思います。
映画のデフォルメかとも思ったのですが、その後、差別というものはもっと根深く、もっと許せないものだということを知ることになります。
私にとって、アメリカという国に対する不信感の始まりとも言える作品ですが、エンディングのシークエンスではある種の救いもあります。
 
 シドニー・ポワチエはこの作品の数年前に、「野のユリ」で非白人として初めてのアカデミー賞を受賞しています。
「彼が演じる黒人像は白人にとって都合の良い黒人ばかりだ」という声もありますが、彼や他の黒人たちの差別との闘いの成果は否定されるものではありません。
 
 アメリカで「夜の大捜査線」が公開された年、シドニー・ポワチエ主演の作品が他に2本公開されています。
そのうちの一本、「招かれざる客」も人種差別をテーマにした作品です。
スペンサー・トレーシーの遺作となったこの作品も、機会があれば是非ともご覧下さい。
 
 ところでシドニー・ポワチエの奥様は、アラン・ドロンの「冒険者たち」のヒロインを演じていたジョアンナ・シムカスです。彼女は結婚後に映画界から引退してしまいました。
私の初めての嫉妬です(笑)。

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<サントラをYouTubeで試聴する>



「夜の大捜査線」(1967) In The Heat Of  The Night
監督:ノーマン・ジュイソン
作曲:クインシー・ジョーンズ
出演:シドニー・ポワチエ/ロッド・スタイガー/ウォーレン・オーツ